序章
雪の降る寒い地方、カリス地方。その小さな街に元気な男の子が産まれた。
「可愛い赤ん坊だこと。お名前はなんというのかしら?」
「『ソレイユ』。太陽のように明るく、大きく、暖かく。雪を溶かすくらいの元気な男の子に育ってほしくて。」
ソレイユはすくすくと育ち、気がつけば魔法学校初等部。今日も魔法の実習で周囲を唸らせていた…悪い意味で。
「マジックミサイル!!」
ドカーーン!ドカドカっドッカーン!
「ソレイユさん。これはまだ皆が習得していない魔法のはず。こんな、皆に見せつけるように…的全部も粉々にして…」
「ふん。予習なんて当たり前だろ!それとみんな、見てくれよ!この破壊力!みんなとは魔力の底力が違うんだよ。」
「ソレイユくんやな感じ?…でもすっごい…」
僕の名前はソレイユ。父さんは魔法の研究者で母さんはとても優しい。
今日も学校終わりに僕の大好きなリンゴのパイを焼いて待っててくれるって。
父さん譲りの魔力で周りからはもう少しで一人前のウィザードとして振る舞えるような実力なんだってさ。
チャームポイント…?は、頭から生えてる立派なまっすぐなウサギのような耳かな。
気がつけば学校も放課後。女神像に祈りを捧げて帰ろうとした時。
「ソレイユ?!今日、オルシャのパンケーキ屋さんで新作が出るってよ!寄ってこうぜ!」
お家に帰ればリンゴのパイが待っているのを天秤に、新作のパンケーキが勝ったので、自宅ではなくオルシャに寄ることにした。
オルシャとは、大変栄えている商業都市で、いろんなお店が並んでいる。
ソレイユは甘いものが大好きなので新作を一刻も早く食べたくて、待ちきれなかった。
二人して女神像…女神「ヴァカリネ」の加護を受けた女神像は、祈りを捧げると好きな街に飛ぶことができるのだ。
数少ない友人とも言える少年と共に、パンケーキ屋に入り、パンケーキの提供を待っていた。
「ソレイユは将来どんなウィザードになりたいと思っているんだ?」
「僕はね、パイロマンサーになりたい。名前がソレイユだろ?火を扱うんだ。名前負けしないようにね。その後は4大元素を学んでエレメンタリストになりたい。夢は大きく!万能で多才なウィザードになりたいんだ。」
そんな会話をしている最中、突然大きく地面が縦に揺れた。
その直後。
一瞬にして
目の前が真っ暗になり、
身体が動かなくなった。
どのくらい時間が経ったんだろう。
何物かによってズタズタになった店内は半分以上が壁が崩壊し、ソレイユの下半身は壁に埋もれてしまっていた。
「なんだこれ…木?」
太い幹がうねり、店どころか街全体を滅ぼしている。火事になっている場所もあり、世界は一気に地獄になっていた。
ついさっきまで話していた友人は…お腹を幹に裂かれたのか、身体の半分が無くなっていた。もう助からないと一目見て理解した。
そんな自分がまだ生きていること。自慢のうさ耳が折れてしまったなんて些細なことだ。なんで僕だけ…助かったの…。
それでも、救急隊でも来ないと、まず身体が動かない。暫く地獄と化した世界を眺めながら、地元の安否が気になっていた。
父さんは研究で長らく家に帰っていないからわからない。まずは母さんの安否を確かめなきゃ…!
動かない身体を憎みながら、手を力の限り揺らして自分がまだ生きている事を伝え続けていたところ。
「あ、生存者がいた。」
近寄ってくる金髪緑眼のお兄さん、明らかに救急隊ではない。
「待っててね、今助けるから」
と、周りの壁と壁を魔力の鎖で繋げてソレイユの上に被さっていた壁を容易くどかした。
よく見たら「リンカー」の衣装を纏っていた。
「大丈夫?かなり幼いみたいだけど、この惨状で生きているのは奇跡だね。」と、他人事のように。
「あ、ありがとうございます。大丈夫です…」
「保護者の方はいないの?見たところ、ほぼ絶望的だけど…」
「親は地元にいます。様子を見に行きたいんですが…」
「この怪我じゃ動けないでしょう。息もするのがやっとだ。このポーションをお飲み。」
と、HP回復ポーションを飲ませてくれたところ、すうっと身体が楽になるのを感じた。
「お兄さん、このご恩は一生忘れません。親の元へ行ってきます。」
「気をつけて、私はここに暫く居るから。困った事があったら戻っておいで」
急いで崩れかけの女神像に祈りを捧げる。そして地元へ戻ると…
ソレイユの地元は木の災害は無かったものの、周りには魔族が蔓延り、逃げる村人、襲われる村人、食べられる村人。
雪の白と血の赤で染まった街がそこにはあった。それは、ソレイユの知らない村と化していた。
「母さん!!」
一直線に自宅に飛び込み部屋の中の母さんを探したところ…
「ソレイユ!!!来ちゃだめ!!!」
そこには魔族に襲われかけている母さんがいた。
「助ける!」
「だめ、逃げ…」その瞬間、魔族が母さんの喉元をかっ開き、血を吹き出しながら母親は亡くなった。
蔓延る血の臭い。そしてりんごのパイを乗せていたであろうお皿が床に転がっていた。
「あ、ああ、ああああ!!!」
威力だけ自信のあるマジックミサイルを全力で放つが、魔族には全く効かなかった。
太刀打ちできない絶望と、母さんを目の前で殺された言葉にできない悲しみを抑えきれず、
叫びながら女神像に急いで戻る。声に反応した魔族が襲い掛かろうとしている中、間一髪、
冷静に祈りを捧げ、オルシャに戻る事ができた。
「おかえり。」と、袖を血まみれにした、助けてくれたお兄さん。
「ご両親、どうだった?」
「母さんが目の前で殺された。村も壊滅的だった。」
「そっか…君の地元、どこなの?」
「遠いよ、カリス地方のスベンティマス。それより…なんでこんなに血まみれなの?」
敬語を使うのも忘れて、ソレイユは男性に問いかけた。
「ああ、結構汚れちゃったな。死体を回収していたんだ。」
ゾッとする発言。
「どうして…?」
「私は見た目はリンカーの衣装を纏っているけど、実はネクロマンサーなんだ。新鮮な死体の回収を行なっている。」
「じゃ、じゃあ今僕の地元の名前を聞いたのは…」
「うん、今から死体の回収をしようと思うよ。」
「そんな事…人が死んだんだぞ!人の亡骸をモノのように扱うな!」
「でもこれがネクロマンサーとして効率がいいし…」
「嫌!僕の地元をこれ以上荒らすな!」
泣きながら服を思いっきりひっぱった。
「そんなに嫌なら…交換条件というか、提案があるんだけど。」
「提案…?」
服をひっぱる力を緩めてみる。
「ご両親、いないんでしょ?父親は?」
「父さんは、どこにいるかわからない。」
「じゃあ、一緒に旅をしよう。君は一人で生きていくには幼すぎる。保護者が必要だと思うよ。それに、君、魔法学校の制服を着ているね。魔法の稽古もつけてあげる。君を一人前のウィザード、いや、それ以上に教育してあげよう。そして、旅の過程で父親の安否も確認しよう。」
…魅力的な提案だった。そんなの、乗るしかない。
「…わかった。一緒に旅をしてください。僕を教育してください。僕の名前は、ソレイユです。」
「私は『ヒスイ』よろしくね。ソレイユ。」
握手を求めるヒスイ。
「ヒスイさん、よろしくお願いします。」
「敬語じゃなくていいよ。ソレイユ」
そっと手を差し出すと、グッと力を込めて、血まみれの手で握ってくれた。
「生きててくれてありがとう。ソレイユ。」
こうして、ヒスイとソレイユの、ソレイユを一人前にするための、そして、父親の安否を確認するための旅が始まった。
続く
序
章
2025/04/25 up
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